<最期の手記>最悪なる1年 〜 逆襲のA 〜
帝国臣民の諸君。久しぶりである。
いや・・・こういう茶番のような文章を書くのはもうやめよう。
何故なら、既に今の私は帝国の人間でもなければ、そもそもフリスタプレーヤーですらないのだから。むしろフリスタなど二度とやりたくないし見たくもない。みんなもフリスタ関連のツイートとかするの出来ればやめてくれ。虫唾が走る。心底うんざりだ・・・。
と、まあこういった調子なので、私がフリスタ界に戻ることは絶対に無い。そこは安心してほしい。なんならこのまま人知れずひっそりと消える予定だったのだが、かっし~元皇帝陛下をはじめ、世話になった人たちになんら挨拶も説明も無しに消えてしまうのは、やはり良くないことだ。
なによりそれは私が帝国時代に最も大切にしていた、ノブリスオブリージュの信念に反する。
だから、私は右手の震えをなんとかして抑え込みキーボードを叩く。チャーリー山岡の消失。その理由、経緯をすべて書き記すことで、最期の挨拶に代えさせていただきたい。もちろん納得してもらえるかはわからない。それでも・・・たとえ許してもらえなくとも、書くべきなのだ。
皇歴2019年から2020年4月現在までの1年間は、私にとってまさに悪夢の1年となった。
しかし、もとを正せば全て私の自業自得でしかなかったのだが。
・・・順を追って説明しよう。
皇歴2019年1月に私は当ブログにて、とある記事を書いた。
記事の内容は当時、私と同じく旧神聖エンジョイD帝国軍に属する同僚の帝国兵であり、フリスタプレーヤーだったA氏及びB氏両人を告発する内容だった。
当時の私は、まるで悲劇のヒーローにでもなったかのような気分で、感情的になって書いていたが、今読み返すとかなり一方的で、公正さを欠いた内容に見える。
しかし、いまさら私の主張が正当だったか否かを検証したところであまり意味がない。
ただ一つ確実なこと、それは私が彼らのフリスタ生命を奪ったという事実だ。
A氏B氏は共にそれなりの重課金プレーヤーで、A氏はおそらく30万くらい、B氏に至っては100万前後投じていた可能性が高い。
それほどまでに入れ込んでいたゲームを、私は半ば強制的にやめさせてしまった。
さぞかし無念だったに違いない。
しかし、当時の私は彼らのことを慮るどころか、「悪者をやっつけてやった。ジェムス(jamtetojam)の仇を取ってやったぜ!」程度のことしか頭に無かった。なんて浅はかだったのだろう。
そして、告発文を公開してから3か月も経たずして、私は再びフリスタをプレーしていた。
本来はA氏とB氏をかなり一方的に告発する、その代償として自分もフリスタを辞めるという、等価交換の原則に則った趣旨であったはずなのに、さも当然のように私はフリスタに復帰していた。
多分、告発から復帰までの、そのすべてが予定調和だったのだ。
なんてさもしい人間なのだろう。他人を陥れ、自分はちゃっかり助かる。
当時の私は帝国軍幹部という支配層の立場から、善良なるフリスタプレーヤーの皆さんを愚民呼ばわりし、ことあるごとに民衆は豚であると罵倒し嘆いていたが、どう考えても真の愚民は自分自身であった。しかし愚かなる者は自分が愚かであることに気づけない。
そして・・・それから間もなくのことだった。私の身に様々な災厄が降りかかり始めたのは。
~皇歴2019年5月某日~
帝国に復帰してから1か月後、私の体はある異変を感じ取っていた。
なにかがおかしい。胸のあたりが常に張っている感じで、なんだか息苦しい。
特に夜中寝ているとき、呼吸困難と言えるレベルで息が吸えなくなる瞬間があり、その苦しさからまともに睡眠が取れない日々が続いていた。これではとてもじゃないがゲームをしようなどという気分にはなれない。
自慢じゃないが私は、これまで病気一つしたことがないような健康な人間だった。そんな私が生まれてはじめて味わう体の不調。
現実の私はネット上でのキャラ設定とは大きく異なり、非常に繊細で、臆病な人間である。だから酷く怯えた。
「なにか良くない病気、癌とかだったらどうしよう」
私は両親を共に癌で亡くしていて、比較的、短命な家系だ。ゆえにとうとう自分の番が来てしまったのかもしれない。美人薄命とはよくいうが、自分もその例に漏れないのではないか?そんな不安に駆られながら、私は病院に向かい、人生初の胃カメラによる診察を受けた。
結果としては、胃にピロリ菌がいただけのことだった。
医師から、これといった大病ではない旨の説明を受けたとき、私はひどく安堵した。そして処方してもらった薬を言われた通り一週間のみ続け、無事ピロリ菌の除去に成功した。
「なんか全然大したことなくて良かったな。無駄にビビって損したわ。まあとりあえず病気もなおったし、これでちゃんと眠れるようになって、ようやくフリスタにも戻れるかな」
体調不良からしばらく遠ざかっていたフリスタにようやく復帰できる。ただ普通に眠れて、普通にゲームを楽しめる。私は、そんなあたり前の日常に戻れる喜びを噛みしめていた。
「帰ったらとりあえず寝て、起きたら久々にフリスタをやろう」
「ククク、待ってろ愚民ども。長らく私がログインしていなかった影響で、きっと現状のフリスタ界は瘴気に満ちているはずだ。ならばゲームに戻ったらまずは豚小屋の掃除だな」
「良い豚と悪い豚の選別、そこから始めるとしよう。まったく、世直しも楽じゃないな」
そんなことを考えながら私は眠りについた。
しかしこの後すぐに、ようやくフリスタに戻れるという私の淡い期待は、無残にも打ち砕かれることになる。
~皇歴2019年5月末日深夜~
「く、苦しい・・・息ができない。体が・・・動かない・・・!!」
ピロリ菌の除去には確かに成功した。そのはずなのに、呼吸困難の症状はまるで改善されてはいなかった。それどころか、むしろこれまでより悪化していた。
私はあまりの苦しさから一瞬パニックに陥りかけたが、ここで下手を打てば本当に死んでしまうかもしれないと思い、なんとか心を落ち着けた。
そして少しでも多くの酸素を体内に取り込むべく大きく息を吸って吐く、また大きく息をすって吐くという一連の動作を繰り返した。
すると、自分の喉から「ヒュ~、ヒュ~」という音が漏れているのに気付いたが、気にせず更に深呼吸を続ける。
「ヒュ~、ヒュ~」
「ヒュ~、ヒュ~」
「ヒュ~、ヒュ~・・・サナイ」
ふと、自分の呼吸とは別に、なにか人間の声のようなものが混じっていることに気づいた。しかし今の私にはそれを気にしている余裕はない。
「ヒュ~、ヒュ~・・・ユルサナイ」
「オマエヲ・・・ユルサナイ・・・!!」
「!!!」
瞬間、私は思わずとびおきた。・・・はずだったのだが、なぜか私の体は仰向けのまま、微動だにすることができなかった。
**************
気づくと夜は明けていた。
昨晩の出来事は、結局なんだったのかよくわからない。
どうやら私は、あの後すぐに気を失ってしまったようで、結局なぞの声の正体が何だったのかはわからずじまいだった。
「きっと、ただの幻聴だったのだろう。いや、そもそもずっと夢を見ていたのかもしれない。うん、きっとそうだ。そうに違いない」
人一倍怖がりな私にとって、昨晩の怪奇現象は自身のキャパをはるかに超える出来事だった。ゆえに、恐怖心を抑え込むためにも、ただ思考を停止させるほかなかったのだ。
「なんだ、夢だったのか。俺、なんか疲れてんのかな、ははは・・・」
幸いにも、これ以降は昨晩のような怪奇現象に見舞われることは無くなった。
~皇歴2019年9月某日~
ピロリ菌を除去してもなお慢性的な息苦しさが消えなかった私は、相も変わらず通院生活を続けていた。最終的な診断結果は後天性の「気管支喘息」。
タバコなど全く吸わない私が、なぜ呼吸器系の病気にかかってしまったのかはわからない。
残念ながら一時の治療で治る病気ではないので、私は一生この病気を抱えて生きていくことになってしまった。
とはいえ、処方してもらった薬を飲んでいれば、ずいぶんと喉は楽になる。
そう・・・確かに楽にはなったのだが、しかし依然として私は眠れない日々を過ごしていた。
なぜか?その理由は自身の体調とは別のところにあった。
リアルの私は、兄と二人で飲食店を営んでいた。早逝した両親から受け継いだ由緒ある店で、自分で言うのもなんだが地元ではそこそこ有名な店だった。
桃鉄で、もしウチの物件が登場したら3億は必要になると思われる優良物件である。
しかし、これまで順風満帆だった店の経営状態が皇歴2019年に入ってからなぜか急激に悪化。売り上げは右肩下がりを続け、9月になって、いよいよこのままだと危ないぞという話を兄と毎日のようにするようになっていた。
正直いって私は、その時点で既に精神的にだいぶ参っていて、このブログにも変な投稿をしてしまった。とはいえ父と母の魂とも言える店をそう簡単に潰すわけにはいかない。
なんとかしてこの悪い流れを断ち切らなければならない。だから私も兄も、自分たちの給与を大幅に減らした上で、アルバイトには正直に事情を話し極力出勤を減らすようにしてもらった。そして様々な施策を凝らしながら身を粉にして働いた。
その甲斐あってか、経営状態は幾分改善されて、なんとか商売を続けていける目途が立った。正直いって、今までの人生でこんなに頑張ったことは一度たりとも無かった。
一般的にきついイメージが強い飲食業とはいえ、うちの店の場合、兄弟で明確に役割分担をしながら経営していたため、1日における私の労働時間は、一般的なサラリーマンのそれよりむしろ短いくらいだった。
故にこれまでは、プライベートの時間でフリスタしたり変な長文ブログを書いたりする余裕があったのだ。でも今はそんなことをしている場合じゃない。
決意を新たにした私は、兄に向かって、こう力強く宣言した。
「今まで色々と負担かけちゃって本当にゴメン。もう、アニキが嫌がってたあの変なバスケのゲームとか金輪際やめるから。ちゃんと一生懸命マジメに働くから。だからこれからも一緒に頑張って、なんとかお店を守っていこう」
もう二度と誘惑に負けてあの変な、妙に金ばかりかかるバスケゲームはしない。兄に対してというより、そう自分自身に言い聞かせるための宣言だった。
しかし、その宣言から数か月後、私と兄の店は、更に予想だにもしなかった不幸に見舞われることになった。
そう、いまなお世界中を震撼させている、新型コロナウイルスの蔓延である。
~皇歴2020年3月31日~
私と兄の店は、皇歴2020年3月31日の午後11時35分を持って、ついに最後の営業を終えた。
まだまだ終わりが見えないコロナ禍。ウチのような既に半分傾いてた個人店には、このような不測の事態に耐えうるだけの資金力はなかったのだ。
せめて、運転資金があと250万もあれば、まだ続けることもできたのだが・・・。
「250万か。はは、まるで俺がフリスタに投資した金額だな・・・ん?」
と、ここまで考えて、私は一連の出来事があまりに話が出来すぎていることに気が付いた。
思えばこの悪夢の1年の間に私に降りかかった災い、その全ては、私に怨みを持つ何者かが、ピンポイントで私を狙い、苦しめ、陥れるために、なにかこう超常的な力でもって働きかけていたとしか今となっては思えない。
もしそうだとすれば思い当たるフシが1つだけある。
A氏とB氏である。
もしこれまでの不可思議な事象が、全てA、B両氏の怨念の力によるものだったとすれば、かなり合点はいく。
例えば最後に店の運転資金が250万足りなかった事実が、この件にA、B両氏が関わっていることを暗に示していた。元帝国兵で私の同僚だった彼らは、私のフリスタへの総投資金額を把握していたはずだ。
恐らく、私がこれまでフリスタに重課金してきたことを心底後悔させるために、丁度250万足りずに店が潰れる、そんなシナリオを用意してきたのだろう。
私の店を確実に潰す、その目的の為だけに世に疫病をバラ撒く。
それほどまでに彼らは私を怨んでいるとでもいうのか。
死してより強まる怨念の力。私への憎しみを抱えたまま、A、B両氏はフリスタ生命を絶った。そのことで両者の怨念はより恐ろしく、強大なものになってしまったのだ。そう、世界をも滅ぼしかねないほどに。
「だけど、もし、そうだとしても・・・これはやりすぎだよ」
人類の歴史は、疫病との闘いの歴史だった。これまでは人類が勝利してきたが、かならずしも今回もそうだとは限らない。
もしも人類が負けて、一つの文明が黄昏時を迎えたとき、間接的にだがそのような事態を招いた原因は、この私にあるということになる。
私の浅はかな行為が巡り巡って人類の滅亡という結果に繋がってしまい、その後悔と絶望に苛まれながら、私自身も終わりを迎える。
そんな無様な瞬間を嘲笑いながら見届けること・・・それこそが彼らの真の目的なのかもしれない。
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~皇歴2020年4月 現在 ~
あれからすぐ、私の兄は行方をくらまし、音信不通となった。
LINEを送っても既読すら付かない状況で、もはや生きているのかすらわからない。
もとより両親は他界しており、友達もいない。
ゲーム関連のフレンドも全て切ってしまった。
そして私自身も職を失い、病気だけが残った。
私は天涯孤独の身となり、その全てを失ってしまったのだった。
以上が、この1年の間に私に起こった悪夢のような出来ごと、後に「最悪なる災厄の1年」と呼ばれることになる、悲劇の顛末である。
「チャーリー山岡」がフリスタ界から突如として消えたのには、こういった並々ならぬ事情があったのだ。
もちろん、だからといって何も言わず急にいなくなったことを許してくれとまでは言わない。ただ、皆さんが許そうが許すまいが、どちらにせよ私が再びそちら側に戻ることはない。今の私はとてもゲームを楽しめるような心の余裕はないし、状況的にも遊んでる場合ではないのだ。
そう、遊んでいる場合ではない。
・・・のだが、もはや今の私にはあらためて職探しするだけの気力は残ってはいなかった。
「いっそこのまま何もせず、死ぬのもありなんじゃないかな」
そんなことを考えながら、1日中ぼーっとして過ごしていた。
そんなとき、ふと右手の甲のあたりに何かザラザラとしたものが当たったような、そんな感触を覚えた。
愛猫のく~ちゃんが、私の右手を舐めていたのだ。
きっとごはんが欲しかったのだろう。一生懸命、何度も何度も繰り返し私の右手を舐めるく~ちゃん。
しばらくの間、その愛らしい姿を眺めていたら、自然と私の目から大粒の涙がこぼれていた。
そう、私は天涯孤独などではなかった。私にはまだく~ちゃんが残されている。
「く~ちゃんの為にも、また明日から頑張って生きていこう」
A、B両氏の怨念は、これからも私を苦しめ続けるかもしれない。
だけど、この先どんなことがあっても、く~ちゃんだけは守ってみせる。
私はそう強く心に誓った。
■エピローグ
それから数日後、私のLINEに1本のメッセージが届いていた。
送り主は私の遠い親戚である、士郎さんだった。
「久しぶり。ブログ見たよ。・・・なんかいろいろ大変だったみたいだね。おつかれさま・・・」
「ところで 、俺もいまブログやっててさ、ゲームとかのレビューブログなんだけど。開設してすぐ月間PV数が3000万超えてさ、もう大人気なんだけど、ライターが足りないから今回増やそうと思って」
「もしまだ仕事が見つかってなかったらだけど、チャーリー君、良かったらウチでライターやらない?チャーリー君の文章、ちょっと中二が過ぎるけど、いまってそういうの逆にちょっとネタっぽい感じになってるというか、笑ってくれる人もいると思うんだ。うちの女性読者とか、きっと無理してる感じがかわいいっていってくれるよ」
「ギャラは文字単価1文字1万でどう?安いかな?まあ人気次第でもっと上がっていくし、楽して簡単に稼げる仕事だからさ。いい返事まってます」
渡りに船とはまさにこのことだ。
私は二つ返事で引き受けることにした。
人生なにが起こるかわからない。
今回、私はフリスタという怪しいバスケゲームにのめりこんでしまった結果、250万を失い、店を失い、兄を失い、病気にかかってしまった。
だけど、そのゲームに関するブログを書いていたおかげで、次の仕事に繋げることが出来た。
士郎さん曰く月間PV3000万を誇る超人気ブログらしい。
私は今、このブログで廃課金に悩む人に向けた記事を書いている。
1人でも多くのプレイヤーを、フリスタという闇のゲームから救い出すためだ。
フリスタは確かに魅力的なゲームだが、同時に人を狂わせる魔力を秘めている。
このゲームでは10万円の課金を微課金とみなす異常な価値観がプレイヤー間で共有されていて、プレイヤー数が少ない割に総投資100万超えの廃課金プレイヤーがあまりに多すぎる。
また、バスケゲームなのに謎の帝国軍という国家が設立され、バスケを通じて世直しを目論む妙な輩が生まれるなど、その異常性は他のオンラインゲームと比べても際立っている。恐らくこのゲームのプレイヤーは皆なんらかの洗脳状態にあるのだろう。
当然、このような異常事態をただ黙って見過ごすような私ではない。
この1年、本当にいろんな事が起きて、一時は生きていく上での目標も見失いかけたけれど、今は違う。
3on3FreeStyleという名の悪の帝国軍の打倒。
それこそが私の新たな目標である。
今回、私はフリスタというゲームに関わってしまったことで全てを失った。だからこそ二度とこのような悲劇を繰り返させたくないのだ。ゆえに私は闘いの道を選んだ。
そして、もしこのフリスタという巨悪の粛清が叶えば、この1年に渡り私を悩ませ続けたA、B両氏の怨念の問題についても、根源を断ち切ったことで自ずと解決するだろう。
正直、途方もない話だが、きっとやってみせる。
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今日も私は一心不乱にキーボードを叩く。これが私の新たな戦い方だ。もうバスケットボールは持たなくなってしまったけれど、本質は何も変わらない。
フリスタという名の悪の帝国軍を倒し、真の平和を取り戻すその日まで、私は戦い続ける。そして最終的に必ずやこの戦いに勝利し、オンラインゲーム界に大いなる変革をもたらすだろう。
なぜなら私は、キセキを呼ぶ漢と呼ばれた正義のレジスタンス。
稀代の革命家チャーリー山岡なのだから。
FIN